"健太トーキョー" 1年目の記録と記憶【前半戦Ver】
毎年同じことを言っている。
「あっという間の1年間だった。」
当然、充実していた証拠だ。
年間ではJ1リーグ34試合に加えて、ルヴァンカップや天皇杯、更にはU-23チームのJ3リーグなどたくさんの試合をこなしてきた。
「2018シーズン 年度総括」と題して、いくつかの時期に分けて今年を振り返っていきたい。
(今回はW杯ロシア大会中断前までの前半戦)
まずは怒涛の前半戦から振り返りたい。
思えばいくつかの分岐点となる試合があったように思う。
開幕戦の相手が宿敵・浦和レッズに決まり、プレシーズンは激しいポジション争いが繰り広げられた。新加入のディエゴオリヴェイラを軸に据えた前線の相方争いやサイドバックの定位置争い、ジョーカーの役割を担うアタッカー枠争いなど長谷川監督へのアピールは激化。開幕当初それぞれでアピールに成功したのは前田遼一、室屋成と太田宏介の代表経験者2人、そして弱冠16歳の久保建英だった。
迎えた開幕戦は両者ともに戦術ベースの構築がまだまだ発展途上で、東慶悟が奪った先制点を守り切れず痛み分け。
「前半はプレシーズンマッチと同様に、少しボールをうまく運ぶことができないシーンが何回かあった。後半は相手の運動量が落ちて中盤が空いていたので、もう少しボールを動かすことが出来れば良かったと思う。それが出来る選手たちだと思っているので、そこはまだまだトレーニング不足だということ。」
こう監督が振り返った通り、勝つためのゲームプランはこの時点では全く機能していなかった。
それは何より結果に表れ、続くベガルタ仙台戦とジュビロ磐田戦を連続で落とす。開幕から3戦連続で同じメンバーを送り出し、交代策としても永井謙佑のスピードや久保建英の個人技を信じて送り出しても実を結ばず無得点が続いた。昨年の後半戦から尾を引く長いブランクは年が変わっても改善されず、遂に順位は17位と降格圏まで落ちた。
しかしまだ序盤。徐々に不安を感じつつあったサポーターを裏目に監督は新たな一手に講じる。
ここは大きな分岐点となった試合であろう。
ルヴァンカップ第2節VSアルビレックス新潟。相手はJ2とはいえ、長らく公式戦で勝てていなかった東京にとってそんなことは関係なかった。サイドバックに若い小川諒也、更に本職はセンターバックの岡崎慎を抜擢。そのほかにも橋本拳人や富樫敬真を初めて先発で起用し活性化を図った。
「先発の11人だけでなく、ベンチの選手もスタンドで観ている選手もみんな勝利に飢えていた。勝ちたい気持ちを前面に出し勝利にこだわりながらも、今日は冷静に戦えた。それが良かったと思う。」
試合後にキャプテンがこう振り返った通り、勝利への執着心を前面に押し出し圧倒的に攻め込んだ試合展開。それでも遠い一点、またしても”勝ちきれない”いつもの東京で終わるのか。そのムードを吹き飛ばしたのが彼である。この左足の一振りはチームを勝利に導くと同時にこの先のチームの士気を大いに変えた貴重なものだった。
ルヴァンカップで待望の新体制初勝利を飾った東京は続くJ1リーグ戦から破竹の勢いを見せた。
まずホーム湘南ベルマーレ戦では前節のリーグ戦からメンバーを入れ替え、ここまで得点から遠ざかり、馴染みきれずにいた大砲・ディエゴオリヴェイラに待望の初得点が決まり完封勝利。
チームは波に乗る。W杯中断期間までの怒涛の15連戦の序盤、このディエゴの爆発はこの上ないサプライズでスピードスター・永井謙佑との2トップが完全にハマった。ガンバ大阪、Vファーレン長崎、鹿島アントラーズといった難敵を次々に下し、開幕当初を不調を感じさせない勢いを掴んだ。
この時点までで私自身が長谷川監督の采配として特筆すべき点をいくつか挙げるなら、まずは”大胆な若手抜擢”だ。
例えばサイドバックで当初レギュラーを掴んだ太田宏介、室屋成の2人は国内でも屈指の攻撃力を誇り、正確なクロスや無尽蔵のスタミナを生かしたオーバーラップで彼らの右に出るものはいないであろうポテンシャルを有した選手たちだ。にも関わらず、彼らの働きに満足しなかった監督は若い2人を積極起用。中でも岡崎慎のビルドアップ能力や対人守備での強さを買いサイドバックにコンバートしたのは驚きだった。昨年までトップチームでほぼ出番のなかった若手を不慣れなポジションで送り出し成功するあたりに確かな手腕を感じた。
「前半から落ち着いたプレーをしてくれた。アタッキングサードに入ったときに慌ててしまったシーンもあったが、90分間通して良い仕事をしてくれたと思っている」(リーグ戦初先発 ベルマーレ戦後の監督評価)
2つ目としては”前線でのコンビネーション構築のアプローチ”。
プレシーズンの段階で日本人離れした圧巻のフィジカル能力を有するディエゴオリヴェイラを高く評価し、その横で+αをもたらせられる存在を模索してきたが最もハマった永井謙佑の起用。早い、馬力のある2トップが相手を押し込み得点を奪う、カウンターを仕掛ける形をシーズンの早い段階から確立しトレーニングの段階からオーガナイズしたのはお見事だった。
また、違った特徴を持つ富樫敬真と前田遼一を途中から起用しリード時に前から連動したプレッシングをかけ、ゲームを締めるプランニングが功を奏した。FW4人で4色を使い分け、しっかりストライカーが決めて勝ち切る試合が増えたことが何よりポジティブな要素だったように思える。
続く敵地でのセレッソ大阪戦はアグレッシブに攻撃を展開したがディフェンスラインの一瞬の連係ミスを突かれ敗戦。
「負けるような試合展開ではなかったので、この結果を受け入れることは難しい。」
と監督は述べていたが、前節から中2日の一戦で主力選手たちのコンディションも万全とはほど遠い状態。連勝は4で止まったが如何にして切り替えられるかが論点だった。
そこから結果として3連勝を飾ることになり、我々の懸念を吹き飛ばした。年間を通してもチームコンセプトを理解して忠実に体現できたベストゲームはこの3連戦だったように感じる。
まず清水エスパルス戦。縦への推進力で圧倒しゲームを優位に進め、後半に大森晃太郎の絶妙なスルーパスから永井謙佑が抜け出し冷静に流し込んだ値千金の決勝点が決まり、長谷川監督にとっても監督キャリアをスタートさせた思い出深い日本平のピッチで、そのチームを相手に貴重な白星。主将・チャンヒョンスが試合中に負傷交代するアクシデント発生も、ここまで穴を埋めるどころか前者に引けを取らぬプレーぶりで貢献してきた丸山祐市がこの日も申し分ない働き。チームメイトや指揮官らが揃ってその対応力を称賛し、ベンチワーク含めた全体の充実感が垣間見られたのもこの時期の良さであった。
キャプテン離脱後は丸山・森重コンビが復活しサンフレッチェ広島戦ではパトリック、名古屋グランパス戦ではジョーといった破壊力抜群なエースたちに仕事をさせず最低限の失点に食い止めると、攻撃陣は高い位置でのボール奪取からショートカウンターを狙う形が体現される。アタッキングサードでの精度が増し、PA内への侵入回数が増えたことで伴ってPKを獲得する場面も増加。ディエゴの独特なステップで蹴り込む”技ありPK”は林卓人もランゲラックも止められず。後半に入っても永井・ディエゴのコンビのスピード感は落ちることなく相手ゴールを襲い二人だけで6ゴールを奪って見せた。
連戦の中でフル稼働を続けるチームの疲労度は監督自身も想定以上だったようで、シーズン2度目の4連勝がかかったアウェー・ヴィッセル神戸戦はスコアレスドローに終わったが、
「今日は勝点1でも良しかと思っている。日程的にタイトなのはどのチームも同じだが、想定していたより選手たちに連戦の疲労があった。そういうなかで辛抱強く戦えて、アウェイで勝点1を東京に持って帰ることは非常にポジティブに捉えているし、久しぶりにディフェンス陣がよく身体を張って抑えてくれた思う」
との試合後の監督のコメントからも厳しいコンディション面での問題は伺えた。
そして中2日で迎えた「多摩川クラシコ」。
相手は昨年の王者、ライバルチーム同士、舞台は等々力陸上競技場。選手たちやサポーターの盛り上がりは相当なものだったように思える。
この試合でも長谷川監督の手腕は光った。ここまでベンチを温める機会が多かった太田宏介を先発起用し、サイドハーフには田邊草民を配置。左サイドの連係面で見直しを図り、太田のプレースキックに期待する思惑もあった。前半には橋本拳人が、後半には森重真人がそれぞれ太田のFKから合わせて2点先取。その後も慌てることなく川崎の猛攻を振り切り、富樫・前田に入れ替えた前線がしっかり前からプレスをかけて隙を作らなかった。「ゲームマネジメント」「スカウティングの成果」が遺憾なく発揮されたグットゲームで勝ち点3を奪った。
中断前ラスト2試合はコンサドーレ札幌とサガン鳥栖とのゲームだったがどちらもスコアレスドロー。実力的に拮抗していた札幌戦は耐えて限られたチャンスを生かせなかった痛み分けだったが、鳥栖戦に関しては降格圏に沈むチームを相手に幾度となく決定機を作るも古巣対戦に燃えるGK権田修一に阻まれ続けた課題の残る一戦だった。
中断前15戦で順位は広島に次ぐ2位。「勝点数は悪くないと思う。広島が少し前を走っているが、まだまだ試合数は半分以上あるので食らいついていきたい。札幌戦もそうだし良い試合はできていると思うので、そこで勝ちきる力をこの中断期間でつけたい。」とは東慶悟の言葉。圧倒的に押し込みながら得点が奪えなかった現状を悔いていたが、これが中断明けの試合にも響いてくる言葉であったことは大きな問題だった。
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