話題の「下がるな!」、下がると何が起きる?!徹底検証!
2017年にFCソウルから加入した元日本代表の髙萩洋次郎。昨季までの4年間を通じては東京のサッカーを中盤から支えるべく、経験豊富なベテランとして献身的かつ聡明なプレーを存分に披露してきた。
在籍5年目を迎えた今季は若干の出遅れが見られ、昨季に比べて出場機会が減少していたが、チームの低迷と相まってこの非凡なるテクニシャンの "待望論" が浮上。
そんな彼が今シーズンのリーグ戦初先発となった柏レイソル戦で「下がるな!」と後方(小川諒也)へ大きな声で指示を出していたシーンがSNS上で取り上げられ、話題に。
🔵🔴#FocusPlay #TokyoKashiwa
— FC東京【公式】🔜5.19大分戦(H) #LIFEwithFCTOKYO (@fctokyoofficial) May 16, 2021
『下がるな!!!!!!』
プレーだけでなくチームのベクトルを揃えた #髙萩洋次郎 選手の “声”!!!!👏🔵🔴
柏戦の見逃し配信は @DAZN_JPN で✨
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内容だけ切り取れば「下がるな!」とは抽象的な指示にも聞こえるが、苦しんでいた東京にとって、この「下がるな!」には単なる一言以上の意味的価値があったかもしれない。
そう "大袈裟" に捉えてみたくなった私は、
『下がると何が起こるのか』を
東京目線から徹底検証してみた!
守備の生命線である「コンパクト」
柏レイソル戦の終了間際に奪った三田啓貴の4点目の場面を見て欲しい。
🎦 ゴール動画
— Jリーグ(日本プロサッカーリーグ) (@J_League) May 15, 2021
🏆 明治安田生命J1リーグ 第14節
🆚 柏vsFC東京
🔢 0-4
⌚️ 90+3分
⚽️ 三田 啓貴(FC東京)#Jリーグの日#Jリーグ#柏レイソルvsFC東京
その他の動画はこちら👇https://t.co/JUEMOXLYeZ pic.twitter.com/fayaDHHHBt
相手DF大南のロングフィードが蹴られた瞬間に長谷川健太監督は「セカンド!」(セカンドボール奪取)と大きな声を張り上げている。
結局、競り勝ったボールを安部柊斗が拾ったことで東京はマイボールとしてショートカウンターを繰り出すことに成功した。
これに関しては川崎の鬼木監督もよく、
「コンパクト!」
と試合中に大声で指示を出している。
要は守備時(特に相手ゴールキックなど)にFW、MF、DFの各ラインを近づけ、スペースを奪うことでセカンドボールやルーズボールを自分たちが回収しようという狙いだ。
ゲームの序盤こそ意識的に陣形をコンパクトに保てるが、相手がボールを握ってピッチを幅広く、深く使って展開してきた場合、
・無意識のうちに警戒して最終ラインを下げてしまうこと
・中盤が各地へ外出することで組織として不安定になること
・前と後ろの距離が広がり、全体が間延びして不用意にスペースを分け与えてしまうこと
に繋がりかねない。
このように時間が経つにつれて自然と綻びが生じてしまうことが多い。
そうした間延びが生じやすいゲーム中盤の時間帯に「下がるな!」と言われれば、及び腰になっていた姿勢を前向きに修正することができ、コンパクトさを再び保つことが可能になるのである。
特にボール保持率を相手に上回られるケースの多い東京にとって、必然的に守備の時間は長くなるため、虎視眈々とカウンターを狙うためには焦れてはいけないのだ。
最終ラインの心理 「オフサイド取れなかったら...」
どんなピンチにおいてもオフサイドという反則を取ることができれば、その時点で相手の攻撃は終了する。
しかし、その分この反則を取れなかった場合の代償は大きく、大ピンチや即失点に繋がることはここ数年で何度も痛感させられている。
自分がもしサイドバックだとして、横のディフェンスラインをパッと見た時に少しでもラインがズレていたら、「オフサイドは取れない」と感じるであろう。
その場合は自然と相手より後ろに付く。オフサイドは取れないが、必然的に裏も取られないので大きなピンチには繋がりにくくなる。
この積み重ねが招く結果は、
【自然と自分の重心が下がってチームの最終ラインが連なって下がることで、上述のようなコンパクトさを失ってしまう】
というものだ。
一気に大きなピンチにはならないが、圧倒的に支配され押し込まれ続けることでセカンドボールの回収さえも困難になり、失点を重ねるというのは最悪のシナリオだ。
難しいことだが、
「連携して緻密にラインをコントロールし、相手を牽制しながら全体を押し上げる」
という大変な仕事をディフェンス陣は常に担っている。
この辺りは森重真人を筆頭としたベテランの力量がモノを言う。
↑ラインコントロールには強きの姿勢、コミュニケーション力、統率力など多くの資質が求められる
ジョアンオマリやブルーノウヴィニといった言語の異なる選手たちとも即座に声を掛け、息を合わせてラインをコントロールする必要がある。
これらのように、ディフェンス陣は日頃から相当な集中力を働かせていることは言うまでもない。
たまにはラインを下げて確実に守るのも良いが、監督が言うようにアグレッシブに行くためには、オフザボール(相手ボールの再開前)時にはせめて「ラインを高く保て!」という牽制の意を込めていると髙萩の指示からは感じられた。
奪う位置が低いとカウンターが困難
東京の代名詞でもある高速カウンターだが、
あまりに低い位置でボールを奪っても相手の奪い返しに来る圧力が強く、前への推進力が出ない。
ただ、どんな相手であろうとボールを90分間奪えないはずはなく、相手のミスもあるのでマイボールには出来る。
それなのに、一本目を繋ぐ前に捨て玉を蹴ってしまったり、クリアさせてもらえないほど寄せられたり、と罠にハマったかのように相手の圧力に屈してラインを下げ、自滅していく試合を今年は何度か見てきた。
「奪う位置を高くすれば自然と攻撃に繋がる」
とは青木拓矢の言葉で、
完全なる理想を言えば『全体が高い位置で、コンパクトに保つ』ことが健太サッカーでの標榜すべき理想形となる。
補足であるが、髙萩の起用によって先ほど触れた奪った直後の "一本目のパス" というワンクッションが入ることになり、周囲がパスコースを作る時間が生まれた。
これにより相手は逆に重心を下げざるを得なくなる。いくら堅守速攻型のチームとは言え、自分たちの時間帯にはボールを握らなければリズムは掴むことができないだろう。
前線目線での声掛けで活性化
前線でボールを待つ攻撃陣からの言葉は後ろの選手たちによく響く。
完全に心理的な話になるが、普段のトレーニングでは対峙する形になる東京のオフェンス陣とディフェンス陣はそれぞれの特徴を身を持って理解している。
そこに確かな信頼関係があれば、
「普段、小平ではあんなに激しく来るのに何故行かないんだ」
と、ボールをひたすら待つ前線の選手から後方へ叱咤の声が掛かってもおかしくない。
また、「少し引け腰だな」という精神的な様子もチームメイトであれば分かるはずだ。
「下がるな!」ということは「いつもみたく前向きにいけ!」というメッセージ性もあるのではないか。
と脳内でポジティブに考えて、モチベーションを高めていくことも意外と必要だったりする。特にこれから訪れる夏場は思考停止に陥りやすくなる。
そうした瞬間のベテランの一言には、ハッとさせられることもあるかもしれない。
これらが主な「下がっていけない」理由や発生する現象である。
ただし、東京の場合は永井謙佑の猛烈なスプリントを筆頭に前からプレッシャーをかけるパターンだけでなく、プレッシャーの出発点を遅らせて自陣深くにブロックを敷く戦術も持ち合わせている。
謂わば【二面性】であり、サッカーという複雑な競技においてはどんなシチュエーションも起こり得る。
そう考えると、より一層のこと、
オフェンス陣とディフェンス陣、更にはそれを繋ぐ中盤の選手たち全員が足並みを揃えて組織として連動して動くことの難しさは伝わってくるだろう。
ここの意思統一が試合中に上手く図られず、
チーム全体の狙いが曖昧になった結果、各地でバラバラになり、間延びして多くのフリーのスペースを相手に渡してしまったことが、5連敗の要因の一つであるかもしれない。
それだけ全体の意思を合わせてコンパクトに陣形を保つことは大事、なのに難しい。
これを徹底してやらせていた就任当初の長谷川健太監督の手腕には脱帽する。
私がFC東京を応援することになってから、
リーグ戦5連敗とは実に初めての非常事態だった。
監督の参謀役の不在や健太監督体制発足から4年目での戦術的マンネリなど、いくつかの低迷の要因は考えられたが、「結局は何とかなる」と必死にポジティブに振る舞い、柏レイソル戦での会心の勝利があって、何とか峠は越えられそうだ。
そして、J2降格や二季連続の監督途中交代からの下位低迷など、ここ十数年間でのいくつかの悲惨な歴史を知っている東京のファンサポーターの皆さんの面構えは苦しい状況においても非常に頼もしかった。
正直、ここから先の展望は全く読めないが、豊富なチーム戦力や経験豊富な健太監督の存在は独走する川崎を追い掛ける上で間違いなくマイナスではない。
サポーターだけでなく、選手たちの頭にも浮かんでいるであろう何個かの「ネガティブとポジティブ」を如何にして律して、チームとしてまとまって浮上していくか。
チーム全体の構築や問題解決は首脳陣に任せることとして、髙萩に言われてハッとさせられた「下がるな!」を "東京らしさ" の原点回帰の言葉として考えてみるのも良いかもしれない。
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